- 自分の手取りだと、傷病手当金はいくらになるの?
- 会社を辞めても、傷病手当金はもらえる?
- 自分はそもそも条件を満たしているのか分からない
- 会社が嫌がると聞いたけど、申請していいのか不安
- 休み始めてから、いつ振り込まれるの?
- 何か月まで出るのか、途中で働いたらどうなるのか
- 退職日に出勤したら終わりと聞いたけど本当?
- 失業保険とどちらを受ければいいのか分からない
上記のような悩みに答えます。
傷病手当金は、仕事以外の病気やけがで働けず給料が出ない日に、加入している健康保険から支払われるお金です。名前は知っていても、額の出し方が「給料の3分の2」とだけ覚えられていたり、辞めたら打ち切りだと思い込まれていたりして、自分の場合の数字を持たないまま休むか辞めるかを考えている人が少なくありません。公式の案内は条件と式を正確に載せていますが、在職中に受ける場合と辞めたあとも受け続ける場合で何が変わるのか、失業保険や年金とどうぶつかるのかを一続きで説明してはくれません。そこで、条件・額・期間という基本を押さえたうえで、在職中から退職後へどうつながるか、失業保険と年金との関係まで、健康保険法の条文と協会けんぽ・厚生労働省の資料で確かめながら整理しました。
傷病手当金の1日あたりの額は「支給開始日前12か月の標準報酬月額の平均÷30×2/3」です。連続した3日の待期のあと4日目から、支給を始めた日から通算1年6か月まで出ます。退職後も受け続けるには、退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があり、退職日に受けているか受けられる状態(退職日に出勤しない)であることが必要です。失業保険とは同時に受けられないので、退職後に30日以上働けないときは、受給期間の延長を申請しておきます。
2026年10月時点の制度で確かめています
休むべきか、辞めるべきかは、ここでは決めません。病状の見立ては主治医と、働き方は本人と会社が決めることです。ここで扱うのは、どちらを選んでも損をしないための、お金の決まりと順番です。
傷病手当金は給料が止まった日を支える
傷病手当金は、仕事以外の理由の病気やけがで働けず、その日の給料が出ないときに、健康保険が代わりに払うお金です。会社が払うものではなく、協会けんぽや健康保険組合といった保険者から支給されます。
この仕組みがあるのは、会社員の給料が「働いた日の対価」だからです。働けない日が続くと給料が止まり、治療に専念するほど生活が苦しくなります。そこで健康保険が、休んでいる間の収入の一部を受け持ちます。会社の財布から出るお金ではないので、受け取ったからといって会社に何かを返す性質のものでもありません。
まず、全体の数字を1か所に並べます。細かい条件は下の項で順に見ていきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 1日あたりの額 | 支給開始日前12か月の標準報酬月額の平均÷30×2/3 |
| いつから | 連続した3日の待期のあと、4日目から |
| いつまで | 支給を始めた日から通算1年6か月 |
| 条件 | 業務外・労務不能・待期3日・給料が出ていない(少ない) |
| 退職後 | 継続して1年以上の被保険者期間と、退職日に受けている(受けられる)状態があれば続く |
出典:健康保険法99条(e-Gov法令検索)/健康保険法104条(e-Gov法令検索)/協会けんぽ よくあるご質問「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
たとえば、在職中のまま療養して治ったら職場に戻る人も、療養中に辞めると決めた人も、使う制度は同じ傷病手当金です。違うのは、辞めた場合に「続けて受けるための条件」が1つ増えることだけです。休むか辞めるかを決める前に、この表の数字を自分の場合に当てはめておくと、どちらを選んだときの暮らしの見通しも立ちます。
編集部では、傷病手当金を「辞めるための制度」でも「休むための制度」でもなく、「決めるまでの時間を買う制度」として読むことをすすめています。条件さえ満たしていれば、受けながら考えることができます。
傷病手当金がもらえる4つの条件
傷病手当金を受けられるのは、次の4つがすべてそろったときです。1つでも欠けると、その日は支給の対象になりません。
健康保険法99条1項は、被保険者が療養のため働けないときに、働けなくなった日から3日を経過した日から支給すると定めています。協会けんぽはこれを4つの条件に分けて案内しています。
- 業務外の病気やけがで療養中であること(仕事中や通勤途中のけがは労災の扱い)
- 療養のため、これまでの仕事ができない状態(労務不能)であること
- 療養のために休み始めた日から連続した3日間(待期)を含めて、4日以上仕事を休んでいること(4日目から支給)
- 休んだ日に給料が出ていないこと(一部だけ出ているときは、その分を減らして支給)
出典:協会けんぽ よくあるご質問「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
2つめの労務不能は、医師だけで決まるものではありません。協会けんぽは、医師の意見と、本人の業務の内容やその他の条件を考えあわせて判断すると書いています。同じ症状でも、立ち仕事と事務仕事では判断が変わりうるということです。申請書の医師の欄に何を書いてもらえるかは主治医が判断することなので、受診のときには、いまの仕事の中身を具体的に伝えておきます。
もらえない、または減る典型も押さえておきます。仕事中のけがは労災の対象で、傷病手当金の対象ではありません。退職後に任意継続で入っている人は、任意継続の被保険者として新たに傷病手当金を受けることはできません(健康保険法99条1項の括弧書き)。
有給休暇を使った日は、その日の賃金と傷病手当金の額が比べられ、賃金のほうが少なければ差額が出ます。
たとえば、月曜に体調を崩して火曜・水曜も休み、木曜も休んだ人は、月曜から水曜が待期で、木曜から支給の対象です。反対に、月曜・火曜と休んで水曜に出勤し、木曜からまた休んだ人は、3日が連続していないので、待期は木曜から数え直しになります。
自分が4つのどれかで引っかかりそうなときは、休み始める前後に、加入している健康保険(協会けんぽなら支部、会社の健康保険組合ならその組合)に「この休み方で待期は成立するか」を聞いておくと、あとで申請が通らないという事態を防げます。
1日あたりの額は標準報酬月額で決まる

1日あたりの額は、支給開始日前12か月の標準報酬月額を平均し、30で割り、3分の2を掛けて出します。手取りの給料からは計算できません。
標準報酬月額は、通勤手当なども含めた月の給料を、いくつかの幅で区切った等級の額です。給与明細の健康保険料もこの額から計算されています。手取りは税金や社会保険料を引いたあとの額なので、同じ手取りでも扶養の人数や住む地域で標準報酬月額は違ってきます。式に入れるのは、あくまで標準報酬月額です。
例:直近12か月の標準報酬月額がずっと24万円だった場合
- 1日あたり:24万円 ÷ 30 × 2/3 = 約5,333円
- 30日分に直すと:約5,333円 × 30 = 約16万円
例:直近12か月の標準報酬月額がずっと30万円だった場合
- 1日あたり:30万円 ÷ 30 × 2/3 = 約6,667円
実際の支給額は、計算の途中の端数処理で数円ずれることがあります。手取り20万円の人が24万円の例に当たるとは限らないので、自分の標準報酬月額を確かめてから当てはめてください。
今の保険者で標準報酬月額が決まっている月が12か月に満たない人は、平均の取り方が変わります。協会けんぽの場合、その各月の標準報酬月額の平均と、協会けんぽ全体の平均をもとに毎年度決まる額の、どちらか低いほうを使います。転職して保険者が変わったばかりの人ほど、給料からの見込みと実際の額がずれやすいところです。
給料が一部だけ出ている日は、全額が止まるわけではありません。健康保険法108条1項は、報酬を受けられる期間は傷病手当金を支給しないとしたうえで、報酬が傷病手当金の額より少ないときは差額を支給すると定めています。有給休暇の賃金や、出勤しなくても出る手当(通勤手当・住宅手当など)がこの報酬にあたります。
出典:健康保険法108条(e-Gov法令検索)/協会けんぽ よくあるご質問「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
たとえば、休職中も住宅手当だけは毎月出る会社なら、その分が差し引かれた額が振り込まれます。逆に、休職に入ると給料が一切出ない会社なら、式どおりの額がそのまま出ます。会社の就業規則で休職中に何が支払われるかを確かめておくと、実際の入金額の見当がつきます。
自分の額を知りたいときは、会社の人事・総務に「直近12か月の標準報酬月額」を聞くのがいちばん早い方法です。健康保険組合に入っている人は、組合独自の上乗せ(付加給付)がある場合もあるので、組合の案内もあわせて見てください。
退職日をどこに置くかで受け取れる期間が変わるので、休職から辞めることを考えている人は 休職から退職する時の順番 を先に読んでください。辞めたあとの失業保険の額は 失業保険の計算ツール で出せます。
傷病手当金はいつから出ていつまでか
待期の3日が終わった4日目から支給の対象になり、支給を始めた日から通算して1年6か月まで続きます。この「通算」は、2022年1月1日の改正で入った考え方です。
改正の前は、支給を始めた日から暦の上で1年6か月がたつと、途中で働いた期間があってもそこで終わりでした。改正後は、途中で復職して傷病手当金が出なかった期間を除いて数えます。厚生労働省は、支給期間中に働いて傷病手当金が出ない期間があれば、支給開始日から1年6か月を超えても繰り越して支給できると案内しています。
出典:厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」
- 待期の3日は、休み始めた日から連続して数える(協会けんぽの案内)
- 支給は、待期が終わった4日目から
- 期間は、同じ病気やけが(そこから起きた病気を含む)について、支給を始めた日から通算1年6か月
- 途中で働いて支給されなかった期間は、通算から除く
たとえば、休職して半年受けたあと復職し、しばらく働いてから同じ病気で再び休んだ人は、残りの期間を続きから受けられます。一方、別の病気は別の傷病として扱われるのが原則です(健康保険法99条の「同一の疾病又は負傷」)。待期をどう数えるかは加入している健康保険に確かめます。再発したと感じたら、申請の前に「前回の続きとして扱われるか」もあわせて聞いておきます。
1年6か月は「上限」であって、必ず受けられる長さではありません。働けるようになった日以降は支給の対象から外れます。通算の上限は1年6か月で変わらないので、長く療養が続きそうな人は、通算の残りがどれだけあるかを申請のたびに控えておくと、終わりが近づいたときに慌てずに済みます。
振込の時期は、申請書を出してから保険者が審査したあとです。毎月の給料のように決まった日に入るわけではないので、申請を何か月分かまとめて出すか、区切って出すかで入金の間隔が変わります。生活費が心配な人は、最初の申請を早めに出すことを考えてください。
在職中に受けるときの申請の流れ

在職中の申請は、本人・医師・会社の3者が1枚の申請書にそれぞれ書き込み、加入している健康保険に出すのが基本の流れです。会社を通して出すか、本人が直接出すかは会社によって違います。
3者が関わるのは、確かめる中身がそれぞれ違うからです。本人は休んだ期間と振込先、医師は療養のため働けない状態だったか、会社はその期間に出勤していないか・給料を払ったかを書きます。協会けんぽは、出勤していない日に支払った報酬(有給休暇の賃金や毎月出る手当)を会社に書いてもらう一方で、残業手当のように出勤した日に払ったものや、見舞金のような一時的なものは書かなくてよいとしています。
- 休み始めたら、会社に休む期間と申請したい旨を伝える
- 申請書を手に入れる(協会けんぽならホームページから取れる。組合は組合の様式)
- 本人の欄を書き、受診のときに医師の欄を書いてもらう
- 会社に出勤と給料の欄を書いてもらう
- 会社経由か本人が直接、加入している健康保険に出す
会社が嫌がると聞いて不安な人もいます。会社がどう感じるかは会社ごとに違い、理由をひとまとめに言うことはできません。ただ、傷病手当金は健康保険から出るお金で、申請するかどうかを決めるのは本人です。会社の欄がなかなか書いてもらえないときは、協会けんぽなら支部、組合なら組合に「会社の証明がもらえない場合の出し方」を相談してください。
たとえば、上司に言い出しにくい人は、人事・総務の担当者に「健康保険の傷病手当金の申請書の会社記入欄をお願いしたい」と事務の手続きとして頼むと、話が感情に流れにくくなります。休職の話し合いと申請書の手続きを分けて考えるのがこつです。
在職中は、休んでいる間も健康保険や厚生年金の保険料がかかります。給料が出ない月は天引きができないので、会社にどう払うかを確かめておきます。この点は傷病手当金とは別の決まりなので、会社の担当者に聞くのが確実です。
辞めたあとも傷病手当金を受け続ける人
退職後も傷病手当金を受け続けられるのは、2つの条件を両方満たす人です。協会けんぽは、退職日に出勤した場合はこの条件を満たさないと明記しています。
辞めると健康保険の被保険者ではなくなるのに受け続けられるのは、健康保険法104条の「継続給付」という仕組みがあるからです。条文は、在職中に受けられたはずの残りの期間を、同じ保険者から続けて受けられるとしています。
| 条件 | 中身 |
|---|---|
| 加入していた期間 | 退職日までに、継続して1年以上の被保険者期間がある(任意継続・共済組合の組合員である被保険者・国民健康保険の期間は除く) |
| 退職日の状態 | 退職日に傷病手当金を受けているか、受ける条件を満たしている |
出典:健康保険法104条(e-Gov法令検索)/協会けんぽ よくあるご質問「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
1年以上という条件は、今の会社に入ってからの期間が短い人ほど注意が要ります。退職日まで受けていても、この条件が足りなければ、退職日の翌日以降の分は出ません。転職してきた人は、前の勤め先の期間がつながって数えられるかを、加入している健康保険に記録で確かめてもらいます。
退職日の状態も大事です。待期の3日が終わる前に退職日が来てしまうと、退職日に「受ける条件を満たしている」とは言えなくなるおそれがあります。最終日に挨拶だけのつもりで出社した場合の扱いは保険者の判断になるので、出社しないのが確実です。協会けんぽは、退職日に出勤したときは退職日の翌日以降の傷病手当金は支払えないとしています。最終日に会社へ行く必要があるときは、行く前に加入している健康保険に扱いを確かめてください。退職日の置き方や有給休暇との並べ方は細かな論点が多いので、休職から退職する時の順番 にまとめました。
ここで挙げた条件と、退職日に出勤したときの扱いは協会けんぽの記載です。会社の健康保険組合に入っている人は、同じことを自分の組合に確かめてください。また、辞めたあとの健康保険を任意継続にしても、傷病手当金の継続給付とは別の話です。保険料の出し方は 任意継続の保険料はいくら? で確かめられます。
辞める前・退職日・辞めた後の順番

辞めることを考えているなら、退職の前・退職日・退職の後の3つに分けて、期限のあるものから並べます。条件の多くは退職日の時点で決まり、あとからさかのぼって満たすことはできないからです。
- 1被保険者期間を確かめる継続して1年以上あるか
- 2退職日は出勤しない挨拶は別の方法で済ませる
- 3健康保険を切り替える任意継続は20日以内(協会けんぽ)
- 4受給期間の延長を申請30日以上働けなくなった日の翌日以降(辞める前から働けないなら離職日の翌日から30日後)
- 退職の前:被保険者期間が1年以上あるかを確かめる。在職中に申請できる状態なら先に出し、支給の状況を健保に確かめておく
- 退職日:出勤しない
- 退職の後:健康保険の切り替え(任意継続・国民健康保険・家族の扶養)を決め、傷病手当金の申請を続ける。任意継続は退職日の翌日から20日以内(協会けんぽ)
- 退職の後:30日以上働けない状態になったら(その日の翌日以降に。辞める前から働けない人は、離職日の翌日から30日が過ぎた日の翌日以降に)、ハローワークで失業保険の受給期間の延長を申請する
期限で言い直すと、退職日の翌日から数えて、任意継続にするなら20日以内(協会けんぽの場合)に健康保険の手続きを済ませ、受給期間の延長は、30日以上働けなくなった日の翌日以降(辞める前から働けない人は離職日の翌日から30日が過ぎた日の翌日以降)にハローワークで申請する、という並びです。
出典:協会けんぽ「任意継続」
退職日の置き方や有給休暇との並べ方は 休職から退職する時の順番 に、家族の扶養に入れるかは 扶養に入るには に、傷病手当金以外の生活費のつなぎ方は お金がないけど辞めたい にまとめています。
傷病手当金と失業保険は同時に出ない
傷病手当金と失業保険(雇用保険の基本手当)は、同じ時期に両方を受け取ることはできません。基本手当は、すぐに働ける人が仕事を探している間に出るもので、働けない人は受けられないからです。
厚生労働省のQ&Aは、基本手当の受給手続きをしたあとに病気やけがで15日以上働けなくなった人は、基本手当の代わりに雇用保険の「傷病手当」を受けられると説明しています。ただし、健康保険の傷病手当金が出る日には、この雇用保険の傷病手当は出ません。名前が似ていますが、健康保険の「傷病手当金」と雇用保険の「傷病手当」は別のものです。
| 健康保険の傷病手当金 | 雇用保険の基本手当 | |
|---|---|---|
| 出る人 | 病気やけがで働けない人 | すぐ働けて、仕事を探している人 |
| 両方を同じ日に | 受けられない | 受けられない |
| 働けない間の扱い | 受ける | 受給期間の延長を申請して先送り |
出典:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」
そこで使うのが、基本手当の受給期間の延長です。受給期間は原則として離職日の翌日から1年ですが、その間に30日以上続けて働けないときは、延長を申請すると働けない日数を加えられます。加えられるのは最大3年で、延長後も4年が上限です(雇用保険法20条1項)。申請は、30日以上働けなくなった日の翌日以降に、住所地のハローワークでします。在職中から働けない状態が続いたまま辞めた人は、離職日の翌日から30日が過ぎた日の翌日以降が申請の時期です。延長後の受給期間の最後の日までなら申請できますが、早めに出しておきます。
たとえば、退職後に傷病手当金の継続給付を受ける人は、その間に延長を申請しておき、傷病手当金が終わって働けるようになってから求職の申込みをします。延長をしないまま1年が過ぎると、基本手当の日数が残っていても受け取れなくなることがあります。病気で辞めた場合の離職理由の扱いは事情と書類で変わるので、会社都合になる条件 を見たうえで、延長の申請のときにハローワークで確かめてください。
基本手当の受け取り方の全体は 失業保険のもらい方 にまとめています。「どちらを取るか」で迷う人もいますが、同じ日に両方は受けられません。継続給付の条件を満たす人は、働けない間は傷病手当金、働けるようになったら基本手当、という順に使う形になります。条件を満たさない人は、延長で基本手当を先送りします。
年金を受けられるときは調整される
同じ病気やけがで障害厚生年金を受けられるときや、退職後の継続給付中に老齢の年金を受けられるときは、傷病手当金が調整されます。ただし、ゼロになるとは限らず、年金のほうが少なければ差額が出ます。
健康保険法108条3項は、同じ病気やけがについて障害厚生年金(同じ理由の障害基礎年金があれば合算額)を受けられるときは傷病手当金を支給せず、年金の額が傷病手当金の額より少ないときは差額を支給すると定めています。同じ条の4項は、同じ病気やけがについて障害手当金を受けた場合に一定の期間傷病手当金を支給しないこと、5項は、継続給付を受ける人が老齢または退職を理由とする年金を受けられるときの調整を定めています。国の給付が二重に出ないようにするための決まりとされています。
- 同じ病気やけがの障害厚生年金:年金が傷病手当金より多ければ傷病手当金は出ず、少なければ差額が出る
- 別の病気やけがの障害年金:調整の対象にならない
- 退職後の継続給付中に老齢厚生年金などを受けられるようになった:傷病手当金は出ない。年金の額を日額に直した額が傷病手当金の日額より少なければ、差額が出る(協会けんぽの案内)
- 年金をさかのぼって受けたとき:重なった期間の傷病手当金を返すことがある
協会けんぽの愛媛支部は、調整の対象となる年金をさかのぼって受けた場合、払いすぎになった傷病手当金を返してもらうと案内しています。
出典:協会けんぽ愛媛支部「傷病手当金をご返金いただく場合があります(年金との調整について)」
たとえば、療養が長引いて障害年金の請求を考えている人は、決まった年金が傷病手当金と重なる期間について、あとで返金を求められる可能性を知っておく必要があります。受け取った傷病手当金を全部使ってしまう前に、年金の請求を考えている旨を加入している健康保険に伝え、どう調整されるかを聞いておくと安心です。
年金の額の計算や、障害年金にあたるかどうかは、年金事務所で確かめることです。ここでは「重なると調整される」「差額は出る」「返金がありうる」の3つだけを押さえておいてください。
使わなくていい場合
退職後の傷病手当金や失業保険の受け取りを手伝うとうたう、有料の給付金サポートがあります。次に当てはまる人は、使わなくて足ります。
傷病手当金の申請先は加入している健康保険で、受給期間の延長の申請先はハローワークです。どちらも本人が出せる手続きで、条件を満たすかどうかを決めるのも保険者とハローワークです。サポートに頼んでも、条件そのものは変わりません。
- 退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があり、退職日に出勤しない予定の人:協会けんぽ(加入する健康保険)に申請を続ければ足ります
- 働けない間の失業保険が心配な人:ハローワークで受給期間の延長を申請すれば、権利を残せます
- 自分の標準報酬月額が分からない人:会社の人事・総務に聞けば分かります
- 申請書の書き方が分からない人:協会けんぽの支部や組合の窓口で聞けます
たとえば、「退職後に給付金を最大限もらう方法」をうたう案内を見て不安になった人でも、上の条件を確かめて、退職日に出勤しないことと延長の申請を忘れなければ、条件は変わりません。窓口で聞いても話が進まないとき、事情が込み入っていて自分では整理できないときに、初めて外部の手を考えれば間に合います。
判断の順番は、条件を自分で確かめる、分からないところを健康保険とハローワークの窓口で聞く、それでも足りないときだけ有料の手伝いを考える、の3段階です。
傷病手当金でよくある質問
手取り20万円だと、傷病手当金はいくらもらえますか?
手取りからは計算できません。式に入れるのは標準報酬月額で、手取りが同じでも扶養の人数や控除で変わるからです。仮に直近12か月の標準報酬月額が24万円なら、24万円÷30×2/3で1日約5,333円です。自分の標準報酬月額を会社に聞いてから当てはめてください。
会社を辞めても傷病手当はもらえますか?
退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があり、退職日に傷病手当金を受けているか受ける条件を満たしていれば、退職後も残りの期間を受けられます。退職日に出勤すると、この条件を満たさなくなります(協会けんぽの案内)。
傷病手当金をもらえる条件は?
業務外の病気やけがで療養中であること、療養のため働けないこと、連続した3日の待期を含めて4日以上休んでいること、休んだ日に給料が出ていないことの4つです。給料が一部だけ出ているときは、その分を減らした額が出ます。
傷病手当金を会社が嫌がると聞きました。申請できますか?
会社がどう感じるかは会社ごとに違い、理由は一概に言えません。傷病手当金は健康保険から出るお金で、申請するかどうかは本人が決めます。会社の記入欄が進まないときは、加入している健康保険の窓口に出し方を相談してください。
同じ病気が再発したら、また最初から1年6か月もらえますか?
同じ病気やけが(そこから起きた病気を含む)については、支給を始めた日から通算1年6か月です。最初から数え直すのではなく、残りの期間を受ける形になります。同じ病気として扱われるかは、加入している健康保険に確かめてください。
退職後に家族の扶養に入ると、傷病手当金はもらえなくなりますか?
継続給付は、在職中に加入していた健康保険から受けるもので、退職後の健康保険を何にするかとは別の決まりです。ただし、傷病手当金を受けていると扶養に入れるかの判断に影響することがあるので、家族の勤め先の健康保険に確かめてください。
数字だけ、もう一度
- 1日あたりの額:支給開始日前12か月の標準報酬月額の平均÷30×2/3。今の保険者での月が12か月に満たない人は平均の取り方が変わる(協会けんぽは、その月の平均と毎年度決まる額の低いほう)
- いつから:連続した3日の待期のあと、4日目から
- いつまで:支給を始めた日から通算1年6か月。途中で働いた期間は除いて数える(2022年1月1日から)
- 条件:業務外・労務不能・待期3日・給料が出ていない(少なければ差額)
- 退職後も続く条件:継続して1年以上の被保険者期間と、退職日に受けている(受けられる)状態。退職日に出勤しない
- 失業保険:同時には受けられない。30日以上働けないなら受給期間を延長(最大3年を加えて上限4年)
- 年金:同じ病気の障害厚生年金や、継続給付中の老齢年金とは調整される。少なければ差額
傷病手当金は、額と期間を知っているだけでは足りず、「退職日にどうなっているか」で使える長さが大きく変わる制度です。辞めるかどうかはまだ決めなくてかまいません。ただ、辞める可能性が少しでもあるなら、被保険者期間と自分の標準報酬月額だけは先に確かめておき、退職日に出勤しないことと延長の申請を忘れない。その2つを手帳に書いておけば、どちらを選んでも、療養に使える時間を自分で守ることができます。

