- 傷病手当金をもらったら、転職先にばれて不利になるって本当?
- 今の会社には、申請したことが知られてしまう?
- 会社が嫌がるって聞いた。迷惑をかけたくない
- もらわずに我慢したら、結局いくら損をするの?
- 年金を受けていると、傷病手当金はどうなる?
- このまま辞めても、退職後に受け取れる?
- 手続きが面倒そうで、申請しないままにしている
- 本当にもらわない方がいい人って、いるの?
上記のような悩みに答えます。
傷病手当金は、仕事以外の病気やけがで働けない日に、加入している健康保険から出るお金です。ところが「もらうと転職で不利になる」「会社に嫌がられる」という話が先に耳に入り、申請そのものをためらっている人がいます。検索すると「転職先にはバレない」と言い切る説明や、「もらわない方がいいは誤解」とまとめる説明は見つかりますが、申請書のどのページを誰が書き、どの書類に何が載るのかを、書類の欄ごとに分けて示したものは、編集部が探した範囲では見当たりませんでした。そこで、よく聞く「もらわない理由」を一つずつ確かめたうえで、申請を知りうるのは誰か、受け取らないと何円違うのか、本当に受け取らなくていいのはどんな場合かまで、健康保険法の条文と協会けんぽ・厚生労働省の資料で確かめながら整理しました。
傷病手当金をもらうかどうかで、転職先に知らせる手続きは、協会けんぽの申請書や申告書の説明には書かれていません。今の会社は在職中の期間の申請なら申請書を書くので知りますが、退職後の期間だけの申請なら会社の記入は要りません。受け取らない場合は、支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均の30分の1の3分の2を、待期3日のあとの休んだ日(給与が出ない日)ごとに受け取らないことになります(2026年10月時点)。
2026年10月時点の制度で確かめています
もらわない理由として聞く話の中身
「もらわない方がいい」と言われる理由の中には、公式の資料で確かめられるものと、確かめようのないものが混ざっています。確かめられるものは書類と条文で答えが出ますが、確かめようのないものは、もらうかどうかを決める材料にはなりません。
傷病手当金の決まりは、健康保険法と協会けんぽの申請書に分かれて書かれています。「会社に知られる」は申請書の作りを見れば答えが出ますが、「会社が嫌がる」は会社の受け止め方の話で、書類のどこにも書かれていません。聞いた話がどちらに当たるかを分けておくと、迷う範囲が小さくなります。
| よく聞く話 | 書類と条文で確かめられること | 確かめた先 |
|---|---|---|
| 今の会社に知られる | 在職中の期間を含む申請は、申請書の3ページ目(事業主記入用)を会社が書く | 協会けんぽの申請書の記入の手引き |
| 転職先に知られる | 前の保険者への照会や転職先への通知は、申請書と加入状況等申告書の説明に書かれていない(伝わらないと書かれているわけでもない) | 協会けんぽの申請書ページ・申告書 |
| 年金が減る | 条文が定めているのは、年金を受けられるときの傷病手当金の側の調整 | 健康保険法108条 |
| 退職するともらえない | 継続して1年以上の被保険者期間などの条件を満たせば、退職後も続けて受けられる | 健康保険法104条 |
| 手続きが面倒 | 申請書は4ページで、本人・会社・医師などがそれぞれのページを書く | 協会けんぽの申請書の記入の手引き |
| 会社が嫌がる | 会社の受け止め方は、書類からは分からない | (確かめる先が無い) |
出典:協会けんぽ「健康保険傷病手当金支給申請書」/協会けんぽ 記入の手引き(2026年9月版)/健康保険法108条(e-Gov法令検索)/健康保険法104条(e-Gov法令検索)
表の最後の行だけは、確かめる先がありません。会社がどう感じるかは、推し量って書けるものではありません。ただ、会社の側で公式に確かめられる作業ははっきりしていて、申請期間の勤務状況と賃金の支払い状況を、申請書の3ページ目に書いて証明することです。協会けんぽの支部の案内では、申請期間が4か月以上にわたるときは、この事業主の証明を複数枚付けるとされています。
たとえば、上司との関係が気になって申請をためらっている人がいたとします。その人が気にしているのは「会社が3ページ目を書く」という事実ではなく、頼んだときの空気のほうかもしれません。その場合も、書類の決まりは条件で分かれます。協会けんぽの場合、退職済みで、申請する期間が退職日の翌日以降だけなら会社の記入は要りません。在職中の日の分を申請するなら、会社の証明が要ります。在職中に申請していなくても退職後に続けて受けられるかは、104条の条件を見たうえで、加入先の保険者に確かめます。
表で分けると、残る迷いは「書類からは分からないもの」だけになります。そこは切り分けて、もらうかどうかは下で出す額と条件で決める、というのが編集部の整理です。
傷病手当金の申請を知りうるのは誰か
協会けんぽの書類の作りの上で、申請の内容を書いたり受け取ったりするのは、申請期間に勤めていた会社と、申請先の健康保険です。前の会社と転職先に知らせる・問い合わせるという手続きは、書類の説明には出てきません。
誰が知るかは、申請書のどのページを誰が書くかと、添付する書類に何を書くかで決まります。協会けんぽの申請書は4ページで、1〜2ページは本人、3ページ目は会社(事業主記入用)、4ページ目は医師など(療養担当者記入用)が書きます。3ページ目は申請期間の勤務状況と賃金の支払い状況を会社が証明する欄なので、在職中の期間を申請すれば、会社は申請を知ることになります。一方、記入の手引きは、資格喪失日(退職日の翌日)以降の期間だけの申請なら、3ページ目は空欄で出すよう案内しています。
- 今の会社:在職中の期間を含む申請なら、3ページ目を書くので知る。退職後の期間だけなら記入は要らない
- 前の会社:直近12か月以内に勤務先が変わった人は、本人が「健康保険加入状況等申告書」に前の会社名・所在地・期間を書く。前の会社に知らせるという記載は無い
- 転職先:申請書と申告書の説明に、転職先へ通知するという記載は無い。ただし協会けんぽの記入の手引きの作りからは、転職先で改めて申請するときは、その期間は転職先が3ページ目を書くことになる
- 健康保険(協会けんぽ):申請先なので当然知る。申告書には、本人が直近12か月の勤務先(会社名・所在地・期間)を書く(前の勤務先も協会けんぽだった場合)
出典:協会けんぽ 記入の手引き(2026年9月版)/協会けんぽ「健康保険加入状況等申告書」/協会けんぽ「健康保険傷病手当金支給申請書」
- 3ページ目(事業主記入用)を会社が書く
- 会社は申請を知る
- 3ページ目は空欄で出す
- 会社の記入は要らない
ここで気をつけたいのは、「書かれていない」と「伝わらない」は同じではないことです。協会けんぽの申請書ページ・よくある質問・加入状況等申告書には、照会や通知の記載も、伝わらないと言い切る記載も見当たりませんでした。だから編集部が書けるのは「公式の説明には、転職先に知らせる手続きは書かれていない」というところまでです。
たとえば、在職中に3か月休み、そのあいだに辞めて、退職後も2か月受け続けた人で考えます。在職中の3か月分の申請には会社の3ページ目が要るので、今の会社は知っています。退職後の2か月分は3ページ目を空欄で出せます。その後に別の会社へ移った場合、転職先が過去の受給を知る手続きは、協会けんぽの説明には出てきません。
自分の場合を確かめるときは、「申請する期間に在職中の日が入るか」「直近12か月で勤務先が変わったか」「入っているのは協会けんぽか組合か」の3つを順に見れば、誰の手元にどの書類が行くかが分かります。
傷病手当金を受け取らないと失う額

傷病手当金を受け取らない場合に手にしない額は、「1日あたりの額×支給の対象になる日数」です。1日あたりの額は、支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均を30で割り、3分の2を掛けて出します。
この式は健康保険法99条にそのまま書かれています。条文は、労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から支給するとし、額を「直近の継続した十二月間の各月の標準報酬月額…を平均した額の三十分の一に相当する額…の三分の二に相当する金額」としています。受け取らないという選択は、この額を日ごとに手放すことです。
協会けんぽが載せている計算例を、そのまま追ってみます。支給開始日が令和8年2月15日で、標準報酬月額が令和7年3月〜8月は16万円、令和7年9月〜令和8年2月は18万円だった人です。
- 平均:(16万円×6+18万円×6)÷12=17万円
- 30で割る:17万円÷30≒5,670円(10円未満を四捨五入)
- 3分の2を掛ける:5,670円×3分の2=3,780円(1円未満を四捨五入)
出典:協会けんぽ「傷病手当金」支給金額/健康保険法99条(e-Gov法令検索)
この例の人が、給料の出ない状態で30日続けて休んだとします。最初の3日は待期で支給されないので、対象は残りの27日です。受け取らなければ、3,780円×27日=102,060円を手にしないことになります。
支給の対象になる日数を数えるときは、待期の決まりに注意します。協会けんぽの案内では、仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)のあと、4日目以降の仕事に就けなかった日に支給されます。待期には有給休暇や土日祝日も含まれ、給与が出たかどうかは関係ありません。2日休んで3日目に出勤すると、待期は成立しません。
支給開始日以前の継続した期間が12か月に満たない場合は、平均の取り方が変わります。協会けんぽの案内では、その各月の標準報酬月額の平均と、協会けんぽが示す額(支給開始日が令和7年4月1日以降なら32万円、令和7年3月31日以前なら30万円)を比べ、低いほうを使います。勤務先が変わっても協会けんぽの加入が続いていれば、加入状況等申告書でその期間を申し出ます。
自分の額は、直近12か月の標準報酬月額を人事・総務に聞いて上の式に入れれば出ます。いつまで出るかを含む全体は 傷病手当金はいくら・いつまで? にまとめています。1日あたりの額に休む日数を掛ければ、「もらわない」の値段が円で見えます。
有給や給料が出ている日はどうなるか
休んだ日に給料などの報酬が出ているときは、その報酬が傷病手当金の額以上なら、その日は支給されません。報酬が傷病手当金の額より少ないときは、差額が支給されます。
健康保険法108条1項は、報酬の全部又は一部を受けることができる期間は傷病手当金を支給しないとしたうえで、その報酬の額が傷病手当金の額より少ないときは「その差額を支給する」と定めています。報酬が出る日と出ない日が混ざる人は、この調整があるので、「もらう・もらわない」の二択ではなく、日ごとにいくら出るかで考えることになります。
協会けんぽのよくある質問では、出勤していない日に支給した報酬として、次のものを挙げています。
- 有給休暇の賃金
- 出勤の有無に関わらず出している手当(通勤手当・扶養手当・住宅手当など)
- 食事・住居などの現物支給
残業手当のように出勤した日に払うものや、見舞金のように一時的に払うものは、3ページ目への記入は要らないとされています。
出典:協会けんぽ よくあるご質問「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」/健康保険法108条(e-Gov法令検索)
有給休暇と傷病手当金を比べるときは、「有給を使った日は傷病手当金がゼロ」と言い切らないことが大事です。有給の賃金が傷病手当金の額より少なければ、差額が出ます。また、有給を使った日も待期の3日に数えられるので、休み始めの3日を有給にしても、4日目からの傷病手当金には影響しません。
たとえば、休職中も住宅手当だけは出る会社なら、その分を差し引いた額が出ます。どちらに当たるかは就業規則と給与明細で分かります。
迷ったときは、「休む日に会社から何が、いくら出るか」を先に確かめます。傷病手当金の額より多い期間はその日の分は出ず、少ない期間は差額を手放すかどうかの話になります。
年金を受けると傷病手当金は調整される
年金を受けられる人は、傷病手当金の側が調整されることがあります。調整がかかるのは、同じ病気やけがで障害厚生年金などを受けられるときと、退職後の継続給付中に老齢・退職の年金を受けられるときです。
健康保険法108条3項は、同一の疾病又は負傷について障害厚生年金の支給を受けることができるときは傷病手当金を支給しないとしたうえで、年金の額が傷病手当金の額より少ないときは差額を支給するとしています。同じ条の5項は、退職後の継続給付を受けるべき人(政令で定める要件に当たる人)が、老齢又は退職を支給事由とする年金を受けられるときは、傷病手当金を支給しないと定めています。
ここで、検索でよく見る「傷病手当金をもらうと年金は減る?」という問いを整理しておきます。条文が定めているのは、年金を受けられるときに傷病手当金を支給しない・差額を支給するという、傷病手当金の側の調整です。傷病手当金を受けたことで年金の額がどう変わるかは、この条文には書かれていません。年金の額そのものの確かめ先の目安は、年金事務所です。
- 同じ病気やけがの障害厚生年金:年金のほうが少なければ、傷病手当金は差額が出る
- 別の病気やけがの障害厚生年金:同じ病気やけがではないので、3項の調整の対象ではない
- 退職後の継続給付中の老齢・退職の年金:5項の調整がかかる。差額の扱いなどは協会けんぽで確かめる
- 年金をさかのぼって受けたとき:重なった期間の傷病手当金を返すことがある
協会けんぽの愛媛支部の案内では、調整の対象となる年金をさかのぼって受けた場合、払いすぎになった傷病手当金を返金してもらうとしています。
出典:協会けんぽ愛媛支部「傷病手当金をご返金いただく場合があります(年金との調整について)」
たとえば、療養が長くなり、障害年金の請求を考え始めた人がいるとします。年金が決まるまで傷病手当金を受け、あとで同じ病気の年金がさかのぼって決まると、重なった期間の傷病手当金を返すことになりえます。協会けんぽ愛媛支部の案内が示しているのは、そうした返金がありうるというところまでです。
年金と重なりそうな人は、「同じ病気やけがによる年金か」「退職後の継続給付中か」の2つを確かめれば、どの項の調整に当たるかが見えます。
退職後も傷病手当金を受ける条件

辞めたら傷病手当金は終わり、というわけではありません。退職日まで継続して1年以上被保険者だった人が、退職のときに傷病手当金を受けていれば(協会けんぽの案内では、受ける条件を満たしている場合も含みます)、退職後も同じ保険者から続けて受けられます。
健康保険法104条は、資格喪失の日の前日まで引き続き一年以上被保険者であった者で、資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者から給付を受けられる、と定めています。協会けんぽのよくある質問は、この1年に任意継続・共済組合・国民健康保険の期間を含めないとしています。協会けんぽは、退職日に出勤したときは継続給付を受ける条件を満たさないため、退職日の翌日以降の傷病手当金は支払えないとしています。また、協会けんぽの案内では、退職後に一度仕事に就ける状態になったあとに再び就けなくなっても、継続給付は出ません。
出典:健康保険法104条(e-Gov法令検索)/協会けんぽ よくあるご質問「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
退職後に受けられる期間は、支給を始めた日から通算して1年6か月の残りです。令和4年1月1日からは通算になり、途中で働いて支給されない期間があっても、その分を繰り越せるようになりました。ただし繰り越しは在職中に働いた期間などの話で、退職後に一度働ける状態になれば、継続給付はそこで終わります。
出典:厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」
失業保険(雇用保険の基本手当)とは、同じ時期に両方を受けることはできません。厚生労働省のQ&Aは、基本手当の受給手続後に15日以上働けなくなった人は雇用保険の傷病手当を受けられるとしつつ、健康保険の傷病手当金が出る日はそれが出ないこと、働けない期間が30日以上になりそうなら受給期間の延長を申請できることを案内しています。
出典:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」
たとえば、退職日まで継続した被保険者期間が1年に満たない人は、在職中に傷病手当金を受けていても、退職後の分は104条の条件に届きません(切れ目なく転職した場合の期間の数え方は、加入先に確かめます)。反対に、継続した被保険者期間が1年以上で、退職のときに受けている人が「辞めるならもらわない」と考えると、退職後に続けて受けられた残りの期間ごと手放すことになります。辞める日の置き方と有給の並べ方は、休職から退職する時の順番 で確かめてください。
退職を考えている人は、「退職日までに継続して1年以上か」「辞めるときに受けているか、受ける条件を満たしているか」「退職日に出勤しないか」を先に確かめるのが出発点です。この2つが分かれば、退職後に受けられるかどうかの見通しが立ちます。
申請しないまま時間がたったら
傷病手当金の申請には期限があり、労務不能だった日ごとに、その翌日から2年で時効になります。「いまは申請しない」と決めても、2年以内であれば、あとから申請できる日が残っています。
協会けんぽの申請書ページは、健康保険の給付を受ける権利は受けられるようになった日の翌日から2年で時効になり、傷病手当金の起算日は労務不能であった日ごとにその翌日になる、と案内しています。退職した日や、最初に休んだ日から2年で一度に消えるのではなく、古い日の分から順に申請できなくなっていきます。
申請書は本人・会社・医師などの3者が書き分けます。手間を見積もるために、何がそろえば出せるかを並べておきます。
- 1本人が1〜2ページを書く振込先・申請期間・報酬や年金の確認
- 2在職中の期間なら会社に3ページ目を頼む退職後の期間だけなら空欄
- 3医師などに4ページ目を書いてもらう労務不能と認めた期間など
- 4添付書類をそろえて出す勤務先が変わった人は加入状況等申告書
添付書類は人によって違います。協会けんぽの案内では、直近12か月以内に勤務先や健康保険の番号が変わった人は加入状況等申告書、障害厚生年金などを受けていてマイナンバーでの照会を希望しない人は年金証書などの写し、労災の休業補償給付を受けている人はその決定通知書の写しが要るとされています。賃金台帳や出勤簿の写しのような不要な書類は付けないよう案内されています。
たとえば、休み始めて半年たってから申請を決めた人でも、時効にかかっていない日の分は申請できます。ただし4ページ目では過去の期間について医師などに労務不能と認めてもらう必要があるので、迷っているうちも通院の記録や休んだ日のメモを残しておきます。
書き方の細かい欄は 傷病手当金の申請書の書き方 に分けました。手続きの手間は「会社に1ページ、医師に1ページ頼むこと」に集約されるので、そこを先に済ませれば、本人のページは後から埋められます。
もらわなくていい場合
次に当てはまる人は、そもそも傷病手当金が出ないか、申請しても受け取る額が出ない場合です。「もらわない方が得」という話ではなく、受け取らなくても差が出ない、または別の制度の対象になる場合として見てください。
傷病手当金を出すかどうかは、条文と協会けんぽの支給要件で決まります。協会けんぽの案内では、対象は業務外の病気やけがの療養で休み、仕事に就けず、連続する3日間を含み4日以上仕事に就けず、休んだ期間に給与の支払いがない(少なければ差額)こと、とされています。これに当たらない期間は、申請するかどうかを迷う前に、受け取る額がありません。
- 休んだ日の報酬(有給休暇の賃金など)が、傷病手当金の1日あたりの額以上出ている期間:その日は支給されない(健康保険法108条1項)
- 仕事中や通勤中のけが・病気で、労災保険の給付を受けられる場合:健康保険からは支給されない(健康保険法55条1項)。労災の窓口で手続きする
- 任意継続被保険者の期間中に始まった病気やけが:対象外(協会けんぽの案内。99条も任意継続被保険者を除くとしている)
- 連続する3日の待期が成立しない休み方(2日休んで3日目に出勤した、など):待期が成立しないので、その休みでは支給が始まらない
出典:協会けんぽ「傷病手当金」給付対象/健康保険法55条(e-Gov法令検索)/健康保険法99条(e-Gov法令検索)
労災について補足すると、55条1項は、労働者災害補償保険法などで相当する給付を「受けることができる場合」には健康保険の給付を行わない、としています。実際に受けているかではなく、受けられるかで決まる書き方です。仕事が原因かもしれないと感じている人は、傷病手当金をもらうかどうかより先に、労災に当たるかを確かめることになります。確かめ先の目安は、会社の担当と労働基準監督署です。
反対に、ここに当てはまらない人が受け取らない場合は、上で出した1日あたりの額を、支給の対象になる日数の分だけ手放すことになります。働けるかどうかの判断も、自分だけで決めるものではありません。協会けんぽの案内では、仕事に就けないかどうかは、療養担当者の意見などをもとに、本人の仕事の内容を考えて保険者が判断するとされています。
たとえば、休職中も会社の制度で給料の大部分が出ている人は、その額が傷病手当金の額以上である期間は、申請しても受け取る額がありません。就業規則で給料が止まる日を確かめ、そこからの傷病手当金の額と並べると、「もらわない」が本当に差の出ない選択かどうかが見えます。
健康保険組合の人が確かめること
ここまでの書類の話は、協会けんぽのものです。会社の健康保険組合に入っている人は、申請書の様式も、添付書類の扱いも、加入している組合で確かめる必要があります。
傷病手当金の額の式や、待期・通算1年6か月・退職後の継続給付・報酬や年金との調整は、健康保険法に書かれた決まりなので、協会けんぽでも組合でも土台は同じです。違いが出うるのは、申請書の作りや添付書類、独自の上乗せ給付といった運用の部分です。誰が知りうるかは申請書の作りで決まるので、自分の組合の様式を見てください。
組合に聞くときは、次の3つを紙に書いて持っていくと、話が早く進みます。
- 申請書は何ページで、会社が書く欄はどこか。退職後の期間だけの申請でも会社の記入が要るか
- 直近12か月以内に勤務先が変わった場合、本人が出す書類はあるか。そこに何を書くか
- 組合独自の上乗せ給付があるか。あるなら、退職後も続くか
たとえば、前の会社が協会けんぽで、今の会社が組合という人が今の組合に申請するときは、協会けんぽの加入状況等申告書ではなく、組合の案内に従います。反対に、前の会社が組合で今が協会けんぽの人は、協会けんぽの申告書に「ただし、全国健康保険協会に加入していた場合に限ります」とあるので、組合だった期間の扱いを協会けんぽに確かめます。
組合の様式で会社が書く欄と本人が書く欄を確かめれば、誰が申請を知りうるかは同じ手順で分かります。
傷病手当金はいくら・いつまで?在職中と退職後で変わる受給条件と申請の順番
休職から退職する時の順番は?有給消化・傷病手当金・退職日の並べ方で変わる額
退職届の書き方|退職日は何日と書けば損しない?有給・月末で決める日付
よくある質問
傷病手当金をもらうデメリットはありますか?
公式の資料で確かめられるのは、在職中の期間を申請すると会社が3ページ目を書くので申請を知ること、年金を受けられる人は傷病手当金の側が調整されること、年金がさかのぼって決まると返金がありうることです。転職で不利になるという記載は、協会けんぽの申請書や申告書の説明にはありません。これらと、受け取らない場合に手放す額を並べて決めてください。
会社が嫌がるのはなぜですか?
会社がどう受け止めるかは、書類からは分かりません。確かめられるのは、会社が申請書の3ページ目に申請期間の勤務状況と賃金の支払い状況を書くという作業です。協会けんぽの場合、退職済みで申請する期間が退職日の翌日以降だけなら会社の記入は要りませんが、在職中の日の分を申請するなら会社の証明が要ります。
手続きは面倒ですか?
協会けんぽの申請書は4ページで、本人が1〜2ページ、会社が3ページ目、医師などが4ページ目を書きます。本人以外に頼むのは、在職中の期間を含むときは2か所(退職後の期間だけなら医師などの1か所)なので、そこを先に済ませれば進みます。書き方は 傷病手当金の申請書の書き方 にまとめています。
傷病手当金をもらうと年金は減りますか?
健康保険法108条が定めているのは、年金を受けられるときに傷病手当金を支給しない・差額を支給するという傷病手当金の側の調整です。傷病手当金を受けたことで年金の額がどうなるかは、この条文には書かれていません。年金の額の確かめ先の目安は、年金事務所です。
生命保険に入れなくなりますか?
傷病手当金の受給が生命保険の加入にどう関わるかは、健康保険の資料には書かれていません。加入を考えている保険会社の告知書で、何を聞かれるかを確かめてください。
退職して失業保険をもらえば、傷病手当金はいりませんか?
失業保険(基本手当)は、すぐに働ける人が仕事を探している間に出るもので、傷病手当金と同じ時期に両方は受けられません。働けない期間が30日以上になりそうなら、失業保険は受給期間の延長を申請して先送りし、その間は傷病手当金の継続給付の条件を満たすかを確かめます。
いまは申請せず、あとから申請できますか?
労務不能だった日ごとに、その翌日から2年で時効になるので、2年以内の日の分はあとから申請できます。ただ、医師などに過去の期間を証明してもらう必要があるので、迷っているうちも通院の記録は残しておいてください。
数字だけ、もう一度
- 知りうる人:在職中の期間を含む申請は会社が3ページ目を書く。退職後の期間だけなら空欄で出せる。転職先に知らせる手続きは、協会けんぽの説明に書かれていない
- 失う額:標準報酬月額の平均÷30×3分の2が1日あたり。公式の例では17万円から5,670円、3,780円
- 待期:連続して3日間のあと、4日目以降の仕事に就けなかった日が対象。有給休暇や土日祝日も待期に含む
- 平均の上限:支給開始日以前の継続した期間が12か月に満たない場合は、協会けんぽが示す32万円(支給開始日が令和7年4月1日以降)と比べて低いほう
- 報酬との調整:報酬が傷病手当金の額以上なら支給されず、少なければ差額(健康保険法108条1項)
- 年金:同じ病気やけがの障害厚生年金とは調整があり、少なければ差額。継続給付中の老齢・退職の年金とも調整(同条3項・5項)
- 退職後:退職日まで継続して1年以上被保険者で、退職のときに受けていれば継続給付(協会けんぽの案内では受ける条件を満たしている場合も含み、退職日に出勤すると条件を満たさないとしている)。支給期間は通算1年6か月
- 失業保険:同時には受けられない。働けない期間が30日以上になりそうな場合は、受給期間の延長を申請できる
- 時効:労務不能だった日ごとに、その翌日から2年
傷病手当金をもらうかどうかは、うわさの重さで決めるものではありません。今の会社が知るのは、在職中の期間を申請したときに3ページ目を書くからで、それは退職後の期間だけの申請かどうかで変わります。転職先に伝わる手続きは公式の説明には書かれていませんが、伝わらないと言い切れる記載もない、というのが確かめられる範囲です。そのうえで、自分の標準報酬月額から1日あたりの額を出し、休む日数を掛けて、手放す額を円で見る。その額と、書類の外にある気持ちの重さとを並べて選べば、どちらを選んでも、知らずに損をしたことにはなりません。

