- 休職したまま、復職せずに辞めてもいいの?
- 退職したら、いまもらっている傷病手当金は止まる?
- 有給が残っている。先に使い切ったほうが得?
- 有給を使っている日は、傷病手当金は出ない?
- 最後の日くらい、挨拶に出社したほうがいい?
- 病気で働けないのに、失業手当はもらえるの?
- 会社に何日前に、どう伝えればいい?
- 健康保険は任意継続にすると、傷病手当金はどうなる?
上記のような悩みに答えます。
休職から退職へ移るときのお金は、退職日・有給・傷病手当金・失業手当の4つが、それぞれ別の決まりで動いています。ひとつずつ読むと分かった気になるのに、並べる順番を間違えると、退職後に受け取れたはずの傷病手当金が止まってしまうことがあります。検索の上位は「休職中でも辞められる」という可否と伝え方が中心で、人材会社なら転職へ、退職代行の会社なら代行へと話が進みます。退職日に出勤すると何が起きるのか、有給の日に傷病手当金がどう減るのか、働けない間の失業手当をどう取っておくのかを、1本の時間軸に並べた説明はなかなか見当たりません。そこで、退職後も傷病手当金を受ける条件・有給との調整・失業手当の受給期間の延長という3つを押さえたうえで、退職日をどの日に置けば取りこぼしが出ないかまで、健康保険法の条文と協会けんぽ・厚生労働省の案内で確かめながら整理しました。
休職中でも退職はできます。順番は、退職日を出勤しない日に決める、有給は傷病手当金と調整されるので、使う日と数え方を健保に確かめ、使うなら退職日より前に置く、退職後は傷病手当金を続けて受ける、働けない間は失業手当の受給期間の延長を申請しておく、の4つです。退職後も傷病手当金を受け続けるには、退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があり、退職日に傷病手当金を受けているか受ける条件を満たしていることが必要で、退職日に出勤すると受けられなくなります。働けない間は失業手当を受けられないので、30日以上働けなくなったら受給期間の延長を申請しておきます。
2026年10月時点の制度で確かめています
休むべきか、辞めるべきか、いつ復職できるかといった病状や治療の見立ては、この記事では扱いません。決めるのは本人と主治医です。迷っているときは主治医や会社の産業医に相談してください。ここでは、辞めると決めたあとの「並べ方」だけを書きます。
休職中でも退職はできる
休職中でも、退職を申し入れることはできます。休職は会社が就業規則などで設けている「籍を残したまま仕事を休む」仕組みで、休職に入ったからといって、辞める自由がなくなるわけではありません。
休職と退職が混ざって見えるのは、休職中も会社の健康保険に入ったままで、傷病手当金も会社の健康保険から出ているからです。辞めた瞬間に健康保険の資格が変わるので、「辞めたら手当も全部終わるのでは」と不安になります。実際には、健康保険の資格を失う日は退職日の翌日と決まっていて(健康保険法36条2号)、その時点で一定の条件を満たしていれば、残りの期間の傷病手当金を退職後も受けられる仕組みがあります。この「継続給付」をどう残すかが、休職からの退職でいちばんお金に響くところです。
休職のまま辞めるときに、先に整理しておくのは次の4つです。
- 退職日をいつにするか(健康保険の資格を失う日が、その翌日に決まる)
- 傷病手当金をいま受けているか、受ける条件を満たしているか
- 有給がどれだけ残っていて、いつ使うか
- 辞めたあと、働けるようになるまでどれくらいかかりそうか(失業手当の受給期間の延長に関わる)
たとえば、休職に入ってしばらくたち、主治医とも話したうえで復職しないと決めた人なら、会社に伝える前にこの4つを紙に書き出しておくと、話し合いの場で退職日を相手任せにせずに済みます。反対に、休職期間の満了まで待って様子を見るか迷っている人は、まだ並べ方を決める段階ではありません。休職期間がいつまでかは就業規則で決まっているので、満了の日を人事に確かめたうえで主治医と相談するのが先です。
何日前に伝えればいいか、就業規則に期限があるときはどうするかは、退職は何日前に言う? で条文から確かめられます。ここから先は、伝える日が決まった前提で、退職日・有給・傷病手当金の並べ方を見ていきます。
退職日・有給・手当は1本の線に並べる

並べ方の基本は、傷病手当金の条件が整った状態で退職日を迎えることです。具体的には、待期の3日が終わって傷病手当金を受けられる状態にあり、退職日には出勤せず、そこまでに有給をどこで使うかを決めておきます。
順番が大事なのは、傷病手当金の決まりが「日」単位で動くからです。傷病手当金は、療養のため働けなくなった日から3日を経過した日から支給されます(健康保険法99条1項)。協会けんぽの案内では、休み始めた日から連続した3日間が待期で、4日目から支給の対象です。待期は休み始めた日から連続した3日間で数えます。土日や有給の日が入るかは加入している健康保険に確かめてください。支給の期間は、同じ病気やけがについて、支給を始めた日から通算して1年6か月です(同条4項)。
1日あたりの額は、支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12か月の標準報酬月額を平均した額の30分の1の、3分の2です(同条2項)。協会けんぽの案内の言い方では「支給開始日の以前12か月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×(2/3)」です。なお、働けない状態(労務不能)かどうかは、医師だけで決まるものではありません。協会けんぽは、医師の意見と、本人の業務内容やその他の条件を考慮して判断すると案内しています。主治医に書いてもらう意見だけでなく、どんな仕事をしていたかも判断の材料になるということです。
加入していた期間が12か月に満たない人は、計算のもとになる平均の取り方が変わるので、協会けんぽの案内で確かめます。
出典:健康保険法99条(e-Gov法令検索)/協会けんぽ「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」よくあるご質問
この決まりを、退職日をはさんで1本の線に置くと次のようになります。
線の上で気をつける点は3つです。1つめは、待期の3日が終わり、退職日の時点で傷病手当金を受けているか受ける条件を満たしていること。2つめは、退職日に出勤しないこと。3つめは、有給をこの線のどこに置くかで、在職中の傷病手当金の出方が変わることです。2つめと3つめは、それぞれ下の項で詳しく見ます。
たとえば、休職に入ってすでに傷病手当金を受けている人なら、1つめは満たしているので、残る問題は退職日の過ごし方と有給の置き場所だけです。反対に、まだ休み始めたばかりで、待期の3日が終わる前に退職日を置こうとしている人は、退職日の時点で条件を満たしているかがあやしくなります。休み始めた日と退職日の間が短い人ほど、退職日を決める前に、加入している健康保険に「この退職日で継続給付の条件を満たすか」を聞いておく価値があります。
自分の額を知りたいときは、標準報酬月額を確かめるところから始めます。給与明細の健康保険料の欄から逆算するより、会社の人事・総務に「直近12か月の標準報酬月額」を聞くか、加入している健康保険(協会けんぽの支部か、会社の健康保険組合)に問い合わせるほうが確実です。額を先に知っておくと、下の「有給を先に使うか」の比べ方がそのまま使えます。
退職日に出勤すると継続給付が消える
退職後も傷病手当金を受け続けるための条件は2つで、どちらかが欠けると、退職日の翌日以降の傷病手当金は出ません。そして協会けんぽは、退職日に出勤したときは条件を満たさないと明記しています。
条文の言い方は、資格を失った日の前日まで引き続き1年以上被保険者であった人で、資格を失った際に傷病手当金の支給を受けている人は、被保険者として受けられるはずだった期間、継続して受けられる、というものです。
資格喪失の日の前日まで引き続き一年以上被保険者であつた者であつて、その資格を喪失した際に傷病手当金又は出産手当金の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであつた期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる。
協会けんぽの案内は、これを次の2点にまとめています。
- 資格を失った日の前日(退職日)までに、継続して1年以上の被保険者期間があること(任意継続被保険者・共済組合の組合員である被保険者・国民健康保険に加入していた期間は除く)
- 資格を失ったときに、傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしていること
そのうえで「退職日に出勤したときは、継続給付を受ける条件を満たさない」と書いています。協会けんぽは理由までは書いていませんが、傷病手当金がそもそも「療養のため労務に服することができない」日に出るものだと考えると、出勤した日がそこから外れるのは自然な読み方です。継続給付は「資格を失ったときに受けている(受けられる)」ことが入口なので、最後の1日が欠けると、その先の残りの期間ごと受けられなくなります。
出典:協会けんぽ「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」よくあるご質問
たとえば、休職中で傷病手当金を受けている人が、最終日に挨拶と私物の片付けのために半日だけ出社した場合でも、その日は出勤した日になります。気持ちの区切りとして顔を出したくなる日ですが、挨拶はメールや手紙で済ませ、私物は郵送してもらうか、退職日より前の別の日に取りに行くと決めておくほうが安全です。私物を取りに行く日が仕事をした日になるのかどうかは、行く前に健康保険に確かめておきます。
もう1つの条件の「継続して1年以上」も見落としやすいところです。入社して1年たっていない人は、退職日まで傷病手当金を受けていても、退職後の継続給付は受けられず、在職中の分で終わります。転職して今の会社に入った人は、前の会社の期間を足せるかどうかが加入の状況で変わるので、健康保険に加入の記録を確かめてもらいます。
退職日を有給の日にする予定の人は、その扱いも確かめる項目に入れます。協会けんぽの案内が「条件を満たさない」と書いているのは出勤した場合で、有給の日を退職日にした場合については書いていません。「退職日を有給の日にしても、継続給付の条件を満たすか」を、加入している健康保険にそのまま聞いておけば、あとで食い違いが出ません。
ここで書いた2つの条件と「退職日に出勤したとき」の扱いは協会けんぽの記載です。会社の健康保険組合に入っている人は、運用が書かれた案内が別にあるので、自分の健康保険組合に同じ質問をして確かめてください。
有給を先に使うか手当を先にするか

有給を使った日は、その日の賃金が報酬として傷病手当金と調整されます。有給の賃金が傷病手当金の額より多ければ、その日の傷病手当金は出ず、少なければ差額が出ます。有給と傷病手当金が同じ日に二重に出ることはありません。
健康保険法108条1項は、報酬の全部または一部を受けられる人には、その期間は傷病手当金を支給しない、ただし報酬が傷病手当金の額より少ないときは差額を支給する、と定めています。協会けんぽは、出勤していない日に支給した報酬の例として「有給休暇の賃金」を挙げ、傷病手当金の額より少ない給与が支払われているときは差額を支払う、と案内しています。
出典:健康保険法108条(e-Gov法令検索)/協会けんぽ「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」よくあるご質問
有給の日の賃金がいくらになるかは、会社の就業規則で決まっています。労働基準法39条9項は、平均賃金・所定労働時間働いた場合の通常の賃金・労使協定がある場合は健康保険法の標準報酬月額の30分の1に当たる額、のいずれかで払うと定めています(労働基準法39条)。どれで払うかで有給の日の賃金は変わるので、傷病手当金の額と比べて多いか少ないかは、会社と健康保険に聞いて確かめます。
ここから分かるのは、有給を使った日は、その日の賃金と傷病手当金のどちらかが二重に出ることはなく、調整されるということです。
- 有給の日は賃金が出て、その日の手当は調整される(出ないか差額だけ)
- 有給は退職日まで使わず、その日は手当を受ける
傷病手当金の支給期間は、支給を始めた日から通算して1年6か月です。有給の賃金が出た日に傷病手当金が出なかった(または差額だけだった)とき、その日が通算の期間にどう数えられるかは、この記事では断定しません。決める前に、加入している健康保険に「有給の日は通算1年6か月に数えられるか」を確かめてください。
一方、有給を使わずに退職すると、残った有給は退職日で使えなくなります。法定の有給を買い上げることは原則としてできないと労働局は案内しているので(鹿児島労働局「年次有給休暇」)、「あとで精算してもらえる」と考えて残しておくのは当てになりません。
比べるときの軸は、有給1日あたりの賃金と、傷病手当金1日あたりの額です。どちらも会社と健康保険に聞けば分かるので、その2つを並べます。有給の日の賃金が傷病手当金の額より多ければその日の傷病手当金は出ず、少なければ差額が出ます(健康保険法108条1項)。
有給の申請そのものは、退職間際でも会社は拒めないと労働局は案内しています(和歌山労働局「事業主の方へ」)。会社には、事業の正常な運営を妨げる場合に有給を他の時季に与える権利(時季変更権)がありますが、労働局は、引き継ぎが必要なら退職日を遅らせてもらうなど話し合うよう案内しています。残っている日数や、退職日から逆算した最終出社日の出し方は 有給消化で退職するなら残日数から退職日を逆算 にまとめています。有給の請求権は2年で時効になるので、残日数のうち時効が近い分がないかも見ておきます(厚生労働省「確かめよう労働条件」)。
編集部の整理では、有給を使い切るかどうかは、有給1日あたりの賃金と傷病手当金1日あたりの額、そして有給の日が通算1年6か月にどう数えられるかの3つを、会社と健康保険に聞いてから決めるものです。答えがそろう前に決めなければならないときも、有給は退職日を過ぎると使えなくなることだけは頭に置き、使うなら使う日を退職日より前に決めておきます。
失業手当は延長を先に申請する
病気やけがで働けない間は、失業手当(雇用保険の基本手当)は受けられません。基本手当は、働く意思と能力があって仕事を探している人のためのもので、厚生労働省のQ&Aも、すぐに職業に就くことができない人は受けられないとしています。
ここで困るのが、基本手当の受給期間です。受給期間は原則として離職した日の翌日から1年で、この期間を過ぎると、所定の日数が残っていても受け取れなくなります(ハローワーク「基本手当について」)。退職後もしばらく療養が続くと、働けるようになったころには受給期間がほとんど残っていない、ということが起きます。
これを防ぐのが受給期間の延長です。厚生労働省のQ&Aによると、離職日の翌日から1年以内に30日以上続けて職業に就くことができない場合は、延長を申請すると、本来の受給期間1年に働けない日数を加えられます。加えられるのは最大3年間で、延長後の受給期間は最長4年です(雇用保険法20条1項)。
- 延長できる人:病気・けが・妊娠・出産・育児などで、30日以上続けて職業に就けない人
- 加えられる期間:働けない日数(最大3年)。延長後の受給期間は最長4年
- 申請する時期:30日以上続けて職業に就けなくなった日の翌日以降、早めに。離職前から働けない状態が続いていた人は、離職した日の翌日から30日を経過した日の翌日以降
- 申請の期限:延長後の受給期間の最後の日までなら申請はできる
出典:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」
傷病手当金を受けている間は療養のため働けない状態なので、同じ期間に基本手当を受けることはありません。順番としては、退職後の継続給付を受けながら、受給期間の延長を申請して基本手当の権利を取っておき、働けるようになってから求職の申込みをする、という流れになります。
たとえば、退職後も療養が続きそうな人は、退職して30日がたったら、早めに住所地のハローワークに延長の申請をしておきます。延長の申請をせずに1年がたつと、あとから働けるようになっても受給期間が終わっていることがあります。退職して間もなく働けるようになる見込みの人は、延長は要らず、離職票が届いたら通常どおり求職の申込みに進みます。
離職理由が自己都合と会社都合のどちらとして扱われるかで給付制限などが変わりますが、病気による退職がどちらとして扱われるかは、事情と書類によって変わるため、ここでは断定しません。延長を申請するときに、ハローワークで「自分の場合の離職理由の扱い」をあわせて聞いておきます。働けるようになったあとの受給額の見通しは、失業保険の計算ツール で出せます。手続きの全体は 失業保険のもらい方 にまとめています。
伝える前にそろえるもの
会社に退職を伝える前に、退職日を決めるための材料をそろえておきます。材料が手元にあれば、会社から退職日を提案されたときにも、その日でいいかをその場で判断できます。
休職中の人が退職を伝えると、会社のほうで退職日を決めて書類を送ってくることがあります。その日が出勤日に当たっていないか、傷病手当金の条件を満たした状態か、有給を使い終えた後か、を自分で確かめられないと、受け取れるはずのお金を気づかないうちに失います。先に材料をそろえるのは、相手を疑うためではなく、自分で退職日を選べるようにするためです。
- 傷病手当金を受けている期間と、支給を始めた日(申請の控えや支給決定の通知)
- 加入している健康保険の名前(協会けんぽか、健康保険組合か)と、標準報酬月額
- 健康保険に入っていた期間(継続して1年以上あるか)
- 有給の残日数と、有給の日の賃金の払い方(就業規則)
- 休職期間の満了日と、就業規則の退職の申し出の期限
伝え方は、メールでも書面でも構いません。休職中で出社や面談がつらいときは、上司か人事に「退職したい」「希望する退職日」「有給の扱い」をメールで送り、日付の残る形にしておきます。有給を使う日と傷病手当金の日が重ならないよう、会社が書く傷病手当金の申請書の欄(休んだ日に払った賃金)と、有給を取った日を合わせておく必要があります。
たとえば、メールに「〇月〇日付で退職したい。退職日までの〇日間は有給を使いたい。退職日は出勤しない」と書いておけば、会社から別の日を提案されたときも、この3点を軸に話せます。退職日を会社が決めて書面を送ってきた場合は、署名する前に、その日が出勤日になっていないかと、上の材料と合っているかを確かめます。
話し合いの場で即答を求められても、「健康保険に確かめてから返事をします」と言って持ち帰って構いません。並べ方を一度決めれば、あとは書類の日付をそれに合わせるだけです。
保険と年金は退職日で切り替わる
健康保険の資格は退職日の翌日に失い、そこから先の健康保険を選び直します。選び方で傷病手当金の扱いが変わるところが1つだけあるので、それを先に押さえます。
退職後の健康保険の選び方は、主に、元の会社の健康保険を続ける任意継続、国民健康保険、家族の扶養の3つです。任意継続は、資格を失った日から20日以内に申請し、加入できるのは2年です(健康保険法37条・38条)。
傷病手当金との関係で知っておくのは次の点です。
- 任意継続の被保険者は、傷病手当金の対象外(健康保険法99条1項の括弧書き)。任意継続に入ってから新たに傷病手当金を受けることはできない
- 一方、在職中からの継続給付は、任意継続に入るかどうかと関係なく、上の2つの条件を満たせば受けられる(協会けんぽの案内)
- 退職後に継続給付を受けている人が老齢厚生年金などの老齢・退職の年金を受けられるようになると、傷病手当金は支給されない。ただし年金額の360分の1が傷病手当金の日額より低いときは差額が出る(健康保険法108条5項・協会けんぽの案内)
つまり、継続給付を受けるために任意継続を選ぶ必要はなく、任意継続を選んだから継続給付が止まるわけでもありません。健康保険は、保険料の額と家族の状況で選んで構いません。任意継続の保険料がいくらになるかは 任意継続の保険料はいくら で確かめられます。
たとえば、老齢厚生年金を受けられる年齢に近づいてから休職し、そのまま退職する人は、老齢厚生年金を受けられる年齢かどうかで、退職後の傷病手当金の出方が変わります。年金を受けられる人は、年金額と傷病手当金の日額を健康保険に伝えて、差額がどうなるかを確かめます。
国民年金・住民税の手続きや、退職後の生活費が何か月もつかは、仕事辞めたいけどお金がないなら で整理しています。休職からの退職では、傷病手当金がいつまで出るかが生活費の見通しの柱になるので、上の線で決めた退職日と残りの期間をそのまま家計表に書き込みます。
使わなくていい場合と相談先
退職代行や、社会保険の給付金の申請を手伝うサービスを使わなくても、自分で足りるのは次のような人です。
- 会社の人事や上司とメールでやりとりできる
- 傷病手当金の申請書を会社に書いてもらう流れがすでにできている
- 加入している健康保険とハローワークに、自分で電話や窓口で質問できる
傷病手当金の継続給付も、失業手当の受給期間の延長も、本人が健康保険とハローワークに申請する手続きです。手順が分かっていれば、会社の担当者と健康保険に聞けば足り、手数料を払って代わりにやってもらう必要はありません。この記事の線を見ながら「この退職日で条件を満たすか」「有給の日の賃金はいくらか」を聞くだけで、判断に必要な材料はそろいます。
一方で、会社と連絡を取ること自体がつらい、退職日を会社が一方的に決めてきて話が進まない、という人もいます。そういうときは、無理に自分だけで進めず、次の窓口を使います。
- 傷病手当金・継続給付の条件:加入している協会けんぽの支部、または会社の健康保険組合
- 失業手当の受給期間の延長・離職理由の扱い:住所地のハローワーク
- 有給を使わせてもらえない、退職日でもめている:労働局の総合労働相談コーナーや労働基準監督署
- 病状・治療・復職できるかどうか:主治医、会社の産業医
たとえば、会社とメールのやりとりはできるが、電話で話すと体調が崩れる人なら、会社とはメールだけにして、健康保険とハローワークへの質問は家族に付き添ってもらって窓口で聞く、という分け方もできます。会社と連絡がまったく取れない状態の人は、退職の手続きと退職代行 の記事で、自分の状況に合う方法を見てください。
次にやること
順番は、材料をそろえる、健康保険に聞く、退職日を決める、会社に伝える、退職後の手続き、です。
- 傷病手当金を受けている期間、加入している健康保険の名前、標準報酬月額、加入の期間、有給の残日数をそろえる
- 加入している健康保険に「この退職日で継続給付の条件を満たすか」「退職日を有給にしても満たすか」を聞く
- 退職日を、出勤しない日に決める。有給を使う日は退職日より前に置く
- 会社に、退職日・有給の扱い・退職日は出勤しないことを、メールなど日付の残る形で伝える
- 退職後は、健康保険を選び直し、退職後の傷病手当金の申請を続ける
- 療養が30日以上続いたら、ハローワークに受給期間の延長を申請する
- 働けるようになったら、ハローワークで求職の申込みをする
- 1材料をそろえる期間・標準報酬月額・有給の残日数
- 2健康保険に聞くこの退職日で継続給付の条件を満たすか
- 3退職日を決めて伝える出勤しない日に。メールで残す
- 4延長を申請する30日以上働けないとき
- 5求職の申込み働けるようになってから
退職を伝える日や、就業規則の期限との関係は 退職は何日前に言う? へ。いつ・どう辞めるかのほかの記事は いつ・どう辞めるか にまとめています。
休職から退職でよくある質問
休職したまま、復職せずに退職してもいいですか?
休職中でも退職を申し入れることはできます。お金の面で気をつけるのは、退職日に出勤しないことと、退職日の時点で傷病手当金を受けているか受ける条件を満たしていることです。復職するか辞めるかの判断そのものは、主治医と相談して本人が決めてください。
退職したら傷病手当金は止まりますか?
退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があり、退職日に傷病手当金を受けているか受ける条件を満たしていれば、退職後も残りの期間を受けられます。どちらかが欠けると、退職日の翌日以降は出ません。支給の期間は、支給を始めた日から通算して1年6か月です。
有給を使っている日は、傷病手当金は出ませんか?
有給の賃金は報酬として傷病手当金と調整されます。有給の賃金が傷病手当金の額より多ければその日は出ず、少なければ差額が出ます。「有給の日はゼロ」と決めつけず、有給の日の賃金の払い方を就業規則で確かめてください。
退職日に挨拶だけ出社してもいいですか?
協会けんぽは、退職日に出勤したときは継続給付を受ける条件を満たさないと案内しています。挨拶はメールや手紙にし、私物の受け取りは郵送にするか、別の日にするほうが安全です。
病気で働けないまま退職したら、失業手当はどうなりますか?
働けない間は失業手当を受けられません。30日以上続けて働けないときは、ハローワークで受給期間の延長を申請すると、本来の1年に働けない日数を加えられます(最大3年・延長後は最長4年)。働けるようになってから求職の申込みをします。
任意継続にすると、退職後の傷病手当金はもらえなくなりますか?
在職中からの継続給付は、任意継続に入るかどうかと関係なく、条件を満たせば受けられます。任意継続に入ってから新たに傷病手当金を受けることはできません。
健康保険組合に入っている場合も同じですか?
条文(健康保険法99条・104条・108条)は同じですが、この記事で引いた運用の説明は協会けんぽのものです。会社の健康保険組合に入っている人は、退職日の扱いや有給の日の調整を、自分の健康保険組合に確かめてください。
数字だけ、もう一度
- 休職中の退職:退職は申し入れられる。健康保険の資格は退職日の翌日に失う(健康保険法36条2号)
- 傷病手当金:休み始めて連続した3日が待期で、4日目から。1日あたりは標準報酬月額の平均÷30×2/3。通算1年6か月(健康保険法99条)
- 退職後の継続給付:退職日までに継続して1年以上の被保険者期間と、退職日に受けている(受ける条件を満たしている)こと。退職日に出勤すると受けられない(健康保険法104条・協会けんぽ)
- 有給との調整:有給の賃金は報酬として調整。傷病手当金より少なければ差額が出る(健康保険法108条1項)
- 失業手当:働けない間は受けられない。受給期間は原則1年。30日以上働けないなら延長を申請(加算は最大3年・最長4年)
- 健康保険:任意継続は20日以内に申請・2年まで。任意継続の被保険者は傷病手当金の対象外だが、継続給付は任意継続と関係なく受けられる
- 使わなくていい場合:会社とメールでやりとりでき、健康保険とハローワークに自分で聞けるなら、代行や申請サポートは要らない
休職から退職へのお金は、制度を1つずつ覚えるより、退職日を真ん中に置いて前後に何が来るかを並べるほうが、取りこぼしが見えます。退職日の時点で傷病手当金の条件が整っていて、その日は出勤せず、有給は使うなら退職日より前に置き、働けない間は失業手当の受給期間を延ばしておく。会社に伝える前に健康保険へ一本電話を入れて、自分の退職日でその条件が満たせるかを確かめておけば、あとは書類の日付をそれに合わせていくだけです。
