- 休業手当と傷病手当金、どちらが得なの?
- 休業手当と傷病手当金は、両方もらえる?
- 長時間労働で体調を崩した。労災なのか、傷病手当金なのか分からない
- 労災の休業補償は80%と聞いた。60%と書いてあるページもあって、どっちが本当?
- 休み始めた最初の3日は、誰からも何も出ないの?
- 通勤途中のけがでも、仕事中のけがと同じ扱い?
- 労災かどうか決まるまで、傷病手当金を先に申請していい?
- いくら・いつまで出るのか、自分の給料で数えたい
上記のような悩みに答えます。
休業手当・労災保険の休業補償給付・健康保険の傷病手当金は、どれも「休んで給料が出ない間」を支えるお金ですが、根拠の法律も、払う人も、掛ける率も、始まる日も違います。検索で上に出る解説は会社の労務担当者に向けたものが中心で、休む本人が「自分はどれに当たるのか」を決める順番は見当たりません。「労災は80%」も、法律の60%と省令の特別支給金20%を区別せずに書かれていることがあります。そこで、3つの違いと額の式を押さえたうえで、休む原因から自分の制度を決める順番、最初の3日の扱い、2つが重なったときの扱いまで、労働基準法・労災保険法・健康保険法の条文と、厚生労働省・協会けんぽの資料で確かめながら整理しました。
休むときに使う制度は、休む原因で決まります。会社の都合で休まされたら休業手当(平均賃金の60%以上)、仕事や通勤が原因のけが・病気なら労災保険の休業補償給付(通勤は休業給付。休業4日目から給付基礎日額の60%、別に特別支給金20%)、仕事の外のけが・病気なら健康保険の傷病手当金です。同じけが・病気で労災の給付を受けられるときは、傷病手当金は出ません(2026年10月時点)。
2026年10月時点の制度で確かめています
休む原因で、使う制度が3つに分かれる
3つのどれを使うかは、本人が選ぶものではなく、休む原因で決まります。会社の側の事情で仕事を止められたのか、仕事や通勤でけが・病気になったのか、仕事と関係のないけが・病気なのか。最初に確かめるのはこの1点です。
3つは、それぞれ別の法律が、別の場面を受け持っています。休業手当は労働基準法26条で、条文の言葉では「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場面です。労災保険の休業補償給付は労災保険法14条で、「業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができない」場面です。傷病手当金は健康保険法99条で、療養のため労務に服することができない場面ですが、協会けんぽは対象を業務外のけが・病気とし、仕事中や通勤途中のものは労災としています。どれが「得」かを比べる前に、自分の場面がどこに当たるかで、使える制度が先に決まる作りです。
- 1会社の側の事情で休まされたか当たれば休業手当(労働基準法26条)
- 2仕事や通勤が原因のけが・病気か当たれば労災保険(仕事は休業補償給付・通勤は休業給付)
- 3どちらでもないけが・病気か健康保険の傷病手当金(健康保険法99条)
労災保険法7条は、労働者の業務上の負傷・疾病などを「業務災害」、通勤による負傷・疾病などを「通勤災害」と呼び分けています。仕事が原因なら休業補償給付、通勤が原因なら休業給付と名前が変わりますが、休む本人から見た率と始まる日は同じです。
たとえば、取引先の都合で工場の操業が止まり、会社から「明日から1週間休んでほしい」と言われた人は、体はどこも悪くないので、労災や傷病手当金ではなく休業手当の場面です。一方、配送中に転んで足を骨折した人や、出勤途中の駅の階段で転んだ人は、業務災害や通勤災害に当たるかを、労働基準監督署が判断する場面です。休日に家で腰を痛めた人は仕事の外のけがです。同じ骨折でも、どこで・何をしていて起きたかで、使う制度が入れ替わります。
迷いやすいのは、長時間労働やパワハラのあとに体調を崩した人です。原因が仕事にあるかもしれない一方で、労災に当たるかどうかを決めるのは本人でも会社でもなく、請求を受けた労働基準監督署です。認定の基準はここでは扱いません。「自分では判断がつかない」という状態から動く順番は、下の「重なったとき」と「急がなくていい場合」の項で整理します。パワハラが続いて辞めることを考えている人は、残しておく記録を 人間関係で辞める記事 にまとめています。
休業手当・労災・傷病手当金を1枚で比べる
3つは、払う人・掛ける率・掛ける元の額・始まる日・申請先が全部違います。率だけを並べて「80%の労災が多い」と決めることはできません。掛ける元の額が、それぞれ別の物差しだからです。
| 休業手当 | 労災の休業補償給付 | 傷病手当金 | |
|---|---|---|---|
| 根拠 | 労働基準法26条 | 労災保険法14条(通勤は22条の2の休業給付) | 健康保険法99条 |
| 当たる場面 | 使用者の責に帰すべき事由による休業 | 業務上・通勤による負傷・疾病の療養で働けず賃金を受けない | 療養のため働けない(協会けんぽの案内では業務外のもの) |
| 払う人 | 会社 | 労災保険(国) | 健康保険(協会けんぽ・健保組合) |
| 掛ける率 | 平均賃金の60%以上 | 給付基礎日額の60%(別に特別支給金20%) | 標準報酬月額の平均÷30×3分の2 |
| 始まる日 | 休業期間中 | 賃金を受けない日の第4日目から | 3日を経過した日から(待期3日) |
| 期間 | 休業期間中 | 療養のため働けず賃金を受けない間 | 通算1年6か月 |
| 申請先 | 申請はなく会社が払う | 所轄の労働基準監督署長 | 加入している健康保険 |
| 時効 | — | 2年 | 2年 |
出典:労働基準法26条/労災保険法14条/労災保険法22条の2/健康保険法99条/協会けんぽ「傷病手当金」(いずれもe-Gov法令APIと公式ページで2026年10月に確認)
- 給付基礎日額の60%+特別支給金20%
- 第4日目から
- 標準報酬月額の平均÷30×3分の2
- 3日を経過した日から
平均賃金は、休む前の3か月に実際に払われた賃金から出す1日あたりの額です。給付基礎日額は労災保険法が決める額で、平均賃金と同じになるかは労働基準監督署で確かめてください。標準報酬月額は、健康保険料の計算に使う等級の額で、手取りや額面の給料と同じとは限りません。3つの率は、それぞれ違う元の額に掛かっています。休業手当の時効は表に載せていません。気になるときは労働基準監督署で確かめてください。
たとえば「傷病手当金は3分の2、労災は80%だから労災のほうが多い」という比べ方は、元の額が同じだという前提を置いています。元の額の決め方が3つとも違うので、同じ人でも、どの物差しで大きく出るかは自分の数字を入れるまで分かりません。率の大小で決めるのではなく、上の図の順番で自分の制度を先に決め、その制度の式に自分の数字を入れる、という順で数えてください。
編集部の整理では、この表で先に見てほしいのは「払う人」の行です。休業手当は会社が払うもので申請書はありません。労災は自分で労働基準監督署長に請求し、傷病手当金は自分で健康保険に申請します。誰に何を出すかが分かれば、次に取りに行く書類も決まります。
会社の都合で休まされたら休業手当

休業手当は、会社の側の事情で休まされた日に、会社が払う手当です。額は平均賃金の60%以上で、60%ちょうどではなく「以上」です。
労働基準法26条は、こう書いています。
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
条文が求めているのは会社の支払いで、労災保険や健康保険のような申請の手続きは書かれていません。本人が動くのは、給与明細に休業手当が載っているか、額が下限を下回っていないかを確かめるところからです。
平均賃金は、労働基準法12条1項で「算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」とされています。割る日数は働いた日数ではなく、3か月の暦の日数です。12条1項のただし書きで最低保障の計算も定められていて、平均賃金の出し方そのものは 即日解雇の手当の記事 で詳しく扱っています。12条3項1号は、業務上のけが・病気で療養のために休んだ期間を、その日数と賃金の両方から除くとしています。
どんな休業が「使用者の責に帰すべき事由」に当たるかの線引きは、26条の条文には書かれていません。本人のけがや病気で休む場合がこれに当たるかどうかも、ここでは判断しません。確かめるときは、①休業を言い出したのが会社か自分か、②会社が休業の理由をどう説明したか、の2点を書面やメールで残し、給与明細を持って、会社の所在地を受け持つ労働基準監督署に相談してください。
たとえば、会社から「仕事が減ったので来週は休んで」と言われた人は、休業手当の場面かどうかを確かめる側です。反対に、自分が体調を崩して医師から休むよう言われた人は、まず下の労災か傷病手当金の場面を見ます。休業手当の話から入ると、病気で休む人は遠回りになります。
仕事・通勤が原因なら労災の休業補償
仕事が原因のけが・病気で働けず、賃金を受けない日は、労災保険から休業補償給付が出ます。休業4日目から給付基礎日額の60%で、これとは別に休業特別支給金が休業給付基礎日額の20%出ます。
労災保険法14条1項は、休業補償給付を「労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から支給するものとし、その額は、一日につき給付基礎日額の百分の六十に相当する額とする」と定めています(労災保険法14条)。20%のほうは、法律ではなく、労働者災害補償保険特別支給金支給規則3条1項という省令に書かれていて、「その申請に基づいて支給する」とされています(特別支給金支給規則3条)。
よく見る「労災は80%」は、14条の60%と特別支給金の20%を足した計算です。1つの条文に80%と書かれているわけではありません。
通勤によるけが・病気のときは、名前が「休業給付」に変わります。労災保険法22条の2は、通勤による負傷・疾病の療養のため働けず賃金を受けない場合に休業給付を行うとし、14条を準用しています。特別支給金支給規則3条も通勤によるものを含めているので、本人から見た率と始まる日は、業務災害と同じ60%と20%、第4日目からです。違いが出るのは、下の項で扱う最初の3日です。
労災保険法12条の8は、業務災害の保険給付として療養補償給付・休業補償給付・障害補償給付などを並べています。休業補償給付は、その並びの2つ目に置かれた給付で、1つ目の療養補償給付とは名前も中身も別のものです。
たとえば、倉庫で荷物を運んでいて腰を痛め、医師から2週間の安静を言われた人は、業務災害の休業補償給付と休業特別支給金を、休業4日目の分から請求する場面です。同じ人が有給休暇を使って休んだ日は、賃金を受けているので「賃金を受けない日」には当たりません。有給を使うか、休業補償給付の対象として休むかは、休み始める前に会社と確かめておく点です。
編集部の整理では、労災の額を見積もるときは「給付基礎日額の60%と20%」と2つに分けて考えるのが安全です。20%は特別支給金支給規則で「申請に基づいて」出るとされているので、請求するときは、休業補償給付と休業特別支給金の両方を出せているかを労働基準監督署の窓口で確かめてください。
休み始めの3日間はどう扱われる?

労災保険の休業補償給付は第4日目からなので、休業の初日から第3日目までは労災保険からは出ません。この3日間を、仕事が原因の場合は会社が労働基準法の休業補償として払い、通勤が原因の場合は会社の補償責任についての法令上の規定がありません。傷病手当金にも、別に待期3日があります。
3日間の扱いが分かれるのは、根拠が別の法律にあるからです。労働基準法76条1項は、業務上の療養のため働けず賃金を受けない場合に、使用者は「平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない」としています(労働基準法76条)。厚生労働省のリーフレットは、休業の初日から第3日目までを待期期間とし、この期間は事業主が労働基準法に基づく休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行うと案内しています。同じリーフレットは、通勤災害と複数業務要因災害については、事業主の補償責任についての法令上の規定はないとしています(厚生労働省 休業(補償)等給付のリーフレット)。労災保険法14条には、この3日間を会社が払うとは書かれていません。
傷病手当金の待期3日は、考え方が違います。健康保険法99条1項は「労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から」支給するとしています。協会けんぽの案内では、待期は連続した3日間で、有給休暇や土日祝日などの公休日も含まれ、給与が出たかどうかは関係しません。連続して2日間休んだあと3日目に仕事をした場合は、待期3日間は成立しません。待期の3日は支給されず、支給は4日目からです。
たとえば、月曜に通勤途中で転んで足をけがし、その日から休んだ人は、通勤災害なので、月曜から水曜の3日間は会社の補償責任についての法令上の規定がなく、木曜から労災保険の休業給付と特別支給金の対象になります。同じけがが勤務中の作業で起きていれば、月曜から水曜は会社が平均賃金の60%を払う側です。仕事の外のけがで傷病手当金を使う人は、金曜から日曜の3日で休み始めても、公休日を含めて待期が成立します。
最初の3日で確かめておきたいのは、仕事が原因のけがなのに、会社がこの3日分を払っていないときです。給与明細でその3日がどう扱われているかを確かめ、扱いが分からなければ、休み始めた日付とけがの経緯を書いたメモを持って、労働基準監督署で聞いてください。
仕事の外の病気なら傷病手当金
仕事の外のけが・病気で働けないときは、健康保険の傷病手当金です。1日あたりの額は、支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均を30で割り、3分の2を掛けた額で、支給期間は同じけが・病気について通算1年6か月です。
健康保険法99条2項は、額を「直近の継続した十二月間の各月の標準報酬月額…を平均した額の三十分の一に相当する額…の三分の二に相当する金額」としています。協会けんぽは、支給の条件を、業務外のけが・病気の療養のための休業であること、仕事に就けないこと、連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと、休んだ期間に給与の支払いがないこと、の4つで案内しています。仕事に就けないかどうかは、療養担当者の意見などをもとに、仕事の内容を考えて判断されます。診断書だけで決まるものではありません。
協会けんぽの計算例では、標準報酬月額の平均が17万円の人は、17万円÷30で約5,670円、その3分の2で1日あたり3,780円です。今の健康保険で標準報酬月額が決まっている月が12か月に満たない人は、その平均と、支給開始日が令和7年4月1日以降なら32万円の、低いほうを使います。
在職中と退職後の受け方、申請の順番、退職しても受け続けられる条件は 傷病手当金はいくら・いつまで?の記事 で詳しく扱っています。ここでは、労災や休業手当と並べたときに押さえる点だけを残します。任意継続被保険者は99条1項の括弧書きで対象から外れています。
たとえば、うつ病で休む人が「仕事のストレスが原因だと思う」と考えていても、労災に当たるかどうかを決めるのは労働基準監督署です。労災の請求をしていない間や、労災に当たらないとされたあとに申請を考えるのは傷病手当金です。ただ、健康保険法55条1項があるので、労災の可能性があることは申請の前に加入している健康保険に伝えておきます。自分の標準報酬月額を会社の給与の担当か加入している健康保険に確かめ、上の式に入れれば、1日あたりの額の見当がつきます。手取りの額を式に入れても、1日あたりの額は出せません。
編集部の整理では、傷病手当金は「労災ではない」と決まってから考えるものではなく、仕事の外の原因で休む人が最初に使う制度です。労災の可能性がある人だけが、下の「重なったとき」の項を先に読んでください。
2つが重なったときは、どちらが出る?
同じけが・病気について労災の給付を受けられるときは、傷病手当金は出ません。有給休暇の賃金のような「報酬」を受けられる日の傷病手当金は、報酬の額が傷病手当金より少なければ、その差額だけが出ます(休業手当がこの「報酬」に当たるかは、下に書くとおり確かめた一次情報にありません)。
労災に当たるかどうかは労働基準監督署が決めます。健康保険法55条1項は、傷病手当金などの支給は、同一の疾病・負傷について、労災保険法などの規定により「これらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない」としています(健康保険法55条)。条文の言葉は「受けることができる場合」で、実際に受け取っているかどうかではありません。労災に当たるけが・病気なら、労災を請求していなくても、傷病手当金の対象からは外れる書き方です。
健康保険法108条1項は、報酬の全部または一部を受けることができる期間は傷病手当金を支給しないとし、ただし報酬の額が傷病手当金の額より少ないときは差額を支給するとしています(健康保険法108条)。協会けんぽの案内では、有給休暇の賃金や、出勤しなくても出る通勤手当・住宅手当などがこの調整の対象です。
| 重なり方 | 扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 同じけが・病気で、労災の休業補償給付を受けられる | 傷病手当金は出ない | 健康保険法55条1項 |
| 有給休暇を使った日 | 有給の賃金が傷病手当金より少なければ差額が出る | 健康保険法108条1項・協会けんぽの案内 |
| 休業手当が出ている日 | 休業手当が108条の「報酬」に当たるかは、確かめた一次情報に書かれていない | 健康保険法108条1項 |
| 雇用保険の「傷病手当」 | 健康保険の傷病手当金や労災の休業補償給付などが出る日は出ない | 厚生労働省Q&A |
出典:健康保険法55条/健康保険法108条/協会けんぽ よくあるご質問(傷病手当金)/厚生労働省 Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~
休業手当と傷病手当金が重なったときの扱いは、ここでは言い切りません。108条の条文は「報酬」と書いていて、休業手当がそれに当たるかまでは書いていないからです。両方の可能性がある人は、休業手当の額が分かる給与明細を持って、加入している健康保険(協会けんぽの支部か健保組合)に、自分の期間の傷病手当金がどう扱われるかを聞いてください。
協会けんぽの傷病手当金の申請書には、今回の申請期間に別の傷病で労災保険から休業補償給付を受けているかを書く欄があり、受けている場合は休業補償給付支給決定通知書のコピーを添付する案内になっています。健康保険の側でも、労災との関係は申請のたびに確かめられます。
たとえば、仕事の外の病気で傷病手当金を受けている人が、まったく別の仕事中のけがで労災の休業補償給付も受けている場合は、申請書でそのことを申告します。一方、同じうつ病について、先に傷病手当金を受け、あとから労災と認められた場合の精算の手順は、確かめた一次情報に書かれていません。その順番になりそうな人は、労災を請求する時点で、加入している健康保険にも先に伝えておくと、あとで慌てずに済みます。休職したまま退職を考えている人の順番は 休職から退職する時の順番の記事 にまとめています。
申請先と期限は2年

労災の休業補償給付は、様式第8号の請求書を所轄の労働基準監督署長に出します。傷病手当金は、加入している健康保険に申請書を出します。どちらも、請求できる権利は2年で時効になります。
厚生労働省の様式第8号(休業補償給付支給請求書)は、宛名が「労働基準監督署長 殿」になっていて、提出先は会社ではなく労働基準監督署です。通勤災害の休業給付は、別の様式です。労災保険法42条1項は、休業補償給付や休業給付を受ける権利は「これらを行使することができる時から二年を経過したとき」に時効によって消滅するとしています(労災保険法42条)。
傷病手当金について、協会けんぽは、受けることができるようになった日の翌日から2年で時効になり、起算日は労務不能であった日ごとにその翌日だと案内しています。最初に休んだ日から2年で全部が消えるのではなく、休んだ日ごとに数えます。添付書類は、事業所の変更があった人の加入状況等申告書、交通事故など第三者の行為が原因のときの届などが挙がっていて、申請書の欄ごとの書き方は 傷病手当金の申請書の書き方の記事 で扱っています。
- 労災(業務災害):様式第8号を、所轄の労働基準監督署長へ。休業特別支給金は申請に基づいて出る
- 労災(通勤災害):休業給付の別様式を、所轄の労働基準監督署長へ
- 傷病手当金:申請書(本人・会社・医師の欄がある)を、協会けんぽの支部または健保組合へ
- 時効:労災は行使することができる時から2年、傷病手当金は労務不能であった日ごとにその翌日から2年
たとえば、仕事中のけがで休んでいる人は、請求書の宛先が会社ではなく労働基準監督署長だという点を先に押さえておきます。会社が書く欄の扱いに迷ったら、書類を持って労働基準監督署の窓口で聞けば足ります。仕事の外の病気で休む人は、自分が協会けんぽと健保組合のどちらに入っているかを、会社の担当者に確かめておきます。
編集部の整理では、2年という期限より先に気にしたいのは「請求しないうちに、何が起きたかを説明できなくなること」です。けがをした日時・場所・作業の内容、体調を崩したなら勤務時間の記録やメールを、休み始めた週のうちに書き出しておいてください。
労災の申請を急がなくていい場合
労災の請求は本人の権利ですが、すべての人が今すぐ労働基準監督署に行く必要はありません。次の条件に当たる人は、労災の請求を急がず、別の制度から考えて構いません。
労災保険の休業補償給付は、業務上または通勤によるけが・病気の療養で働けず、賃金を受けない日のためのものです。この条件の外にいる人が請求しても、使える場面がありません。
- 原因がはっきり仕事の外にあるけが・病気の人:休日の事故や持病の悪化など。使うのは健康保険の傷病手当金です
- 会社の側の事情で休まされているだけで、体はどこも悪くない人:使うのは休業手当です
- 有給休暇を使って休み、賃金を受けている人:その日は労災保険の「賃金を受けない日」に当たりません
- 休んだのが3日以内で、4日目以降に休まない人:労災保険の休業補償給付は第4日目からなので、休業の分は出ません(仕事が原因なら、3日分は会社の休業補償の場面です)
- 原因が仕事にあるか自分でも分からず、まず休むことを優先したい人:記録を残しながら、労災を請求するかを考えてよい段階です。傷病手当金を先に申請するなら、加入している健康保険に経緯を伝えてからにします
たとえば、休日に自宅の階段で足をくじいた人は、労災の請求を考える必要はなく、傷病手当金の条件に当たるかを確かめれば足ります。一方、長時間労働が続いたあとに眠れなくなった人は、最後の項目に当たります。急がないのは「請求をあきらめる」ことではなく、時効の2年の中で、記録をそろえてから請求するかを決めるという意味です。業務外の病気での欠勤や解雇が心配な人は うつや体調不良の欠勤で解雇されたらの記事 を見てください。
迷うときは、勤務時間の記録、けがや体調の経緯のメモ、給与明細を持って労働基準監督署に行き、「この経緯で労災の請求ができるか」を聞くところまでで十分です。その場で請求書を出す必要はありません。
休業手当・労災・傷病手当金でよくある質問
傷病手当と休業手当は、どちらが得ですか?
本人が選べるものではなく、休む原因で決まります。会社の側の事情で休まされたら休業手当、仕事の外のけが・病気なら傷病手当金です。率も平均賃金の60%以上と標準報酬月額の平均÷30の3分の2で、掛ける元の額が違うので、率だけでは比べられません。
休業手当と傷病手当金は、両方もらえますか?
健康保険法108条1項は、報酬を受けられる期間の傷病手当金は、報酬が傷病手当金より少なければ差額だけを出すとしています。ただ、休業手当がこの「報酬」に当たるかは、確かめた一次情報に書かれていません。給与明細を持って、加入している健康保険に自分の期間の扱いを聞いてください。
会社が傷病手当金や労災を嫌がる理由は何ですか?
会社がどう考えているかは、ここでは書けません。本人ができることは、労災の請求書は自分で所轄の労働基準監督署長に出せること、傷病手当金の申請書には会社が書く欄があるので、書いてもらえないときは加入している健康保険に相談することです。どちらも、経緯の記録を自分で持っておくと話が進みます。
手取りの月額から、傷病手当金がいくらか分かりますか?
手取りからは計算できません。傷病手当金は、支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均÷30×3分の2で、標準報酬月額は手取りではないからです。標準報酬月額を会社の給与の担当か加入している健康保険に確かめて式に入れ、詳しい数え方は 傷病手当金の記事 を見てください。
労災の休業補償は60%ですか、80%ですか?
労災保険法14条の休業補償給付が給付基礎日額の60%で、これとは別に特別支給金支給規則3条の休業特別支給金が20%です。80%は、この2つを足した計算です。どちらも休業4日目からです。
労災か分からないとき、先に傷病手当金を申請していいですか?
健康保険法55条1項は、同じけが・病気で労災の給付を受けられる場合は傷病手当金を出さないとしています。先に傷病手当金を受け、あとから労災と認められたときの精算の手順は、確かめた一次情報に書かれていません。その順番になりそうな人は、申請の前に加入している健康保険に経緯を伝えて、扱いを聞いてください。
傷病手当金はいくら・いつまで?在職中と退職後で変わる受給条件と申請の順番
数字だけ、もう一度
- 制度の決まり方:休む原因で決まる。会社の側の事情なら休業手当、仕事・通勤のけが・病気なら労災、仕事の外なら傷病手当金
- 休業手当:会社が平均賃金の60%以上を払う(労働基準法26条)。平均賃金は休む前の3か月の賃金の総額÷暦の日数
- 労災:休業4日目から給付基礎日額の60%(労災保険法14条)と特別支給金20%(特別支給金支給規則3条)。80%は足した計算。通勤は休業給付
- 最初の3日:仕事が原因なら会社が平均賃金の60%(労働基準法76条)、通勤が原因なら会社の補償責任の規定なし。傷病手当金は待期3日(公休日・有給を含む)
- 傷病手当金:標準報酬月額の平均÷30×3分の2。通算1年6か月
- 重なったとき:同じけが・病気で労災を受けられるなら傷病手当金は出ない(健康保険法55条)。報酬を受けられる日は、報酬が傷病手当金より少なければ差額だけ(108条)
- 申請と期限:労災は様式第8号を労働基準監督署長へ、傷病手当金は加入している健康保険へ。どちらも時効は2年
休業手当・労災・傷病手当金で迷うのは、「どれが多いか」を先に考えてしまうからです。順番は逆で、休む原因から自分の制度を1つに決め、その制度の式に自分の平均賃金や標準報酬月額を入れる。仕事が原因かどうか分からないうちは、加入している健康保険に経緯を伝えたうえで仕事の外の制度で生活を支えながら、経緯の記録をそろえ、2年の期限の中で労災を請求するかを決める。この順で動けば、どの書類をどこに出すかは、休み始めた週のうちに決まります。

